MasterKoda’s blog

半導体エンジニア、マーケッターです。テクノロジーや読書について書きます。

「イノベーション・オブ・ライフ」を読んだ

クリステンセンの本を読み漁っている。「イノベーションのジレンマ」の提唱で有名な彼が、経営戦略のみならず個人の人生についても言及した、とても心に残る、示唆に富んだ一冊に出会った。


イノベーション・オブ・ライフ
原題:How will you measure your life?
クレイトン・M・クリステンセン
ジェームズ・アルワース
カレン・ディロン
櫻井祐子 訳
単行本: 264ページ
出版社: 翔泳社 (2012/12/7)

経営戦略と人生戦略

本書で紹介する理論は、人間の営みに対する深い理解 -「何が、何を、なぜ引き起こすのか」- に支えられており、また、世界中の組織によって徹底的に検証、活用されてきた。これらの理論はわたしたちの日々の決定にも指針を与えてくれる。

経営論についてこれまで多くの論文や調査によって明らかにされてきた事実は、個人の生活にも有効な効果をもたらすと彼(*1)は言う。言われてみれば非常に説得力がある文章だが、多くの人々は個人の成功や失敗に対して焦点を当て、自分と照らし合わせて是非を判断しがちだ。そこに度重なる分析、明晰な見解が与えられていなくとも。

(*1) 著書は3名の共著であるが、その分別は読者にはつかないため、ここでは全て彼=クリステンセンとする。

彼はこの著書において、経営理論を切り口に議論を展開していく。時には自身の体験を踏まえた解説もあるが、あくまでも切り口から見えた1つの側面にすぎない。日常の思考の分岐点で彼の提供する理論が解決の糸口になることは少なくないだろう。

彼が提供する理論は下記のようなものがある。

  • 相関関係と因果関係
  • 動機付け要因と衛星要因
  • 意図的戦略と創発的戦略
  • 資源、プロセス、優先順位
  • 未来をアウトソースしてはいけない

子育ての本

経営の専門家視点で書かれた本なのだが、子育てに関する内容が比較的多い。これは、人生を豊かにするためには子どもを始めとする家族との関わりが非常に重要であることを伝えたいという、著者の意向の表れだろう。子どもとの関わり方について、非常に示唆に富んだ分析がなされている。

例えば、組織の能力を測る3つの構成要素「資源(Resource)」「プロセス(Process)」「優先順位(Value)」(*2) を用いて子育てで起きがちな誤りについて指摘している。クリステンセン曰く、「教師や研究者の知識を受動的に吸収」したからといって、「必ずしも新しい知識を生み出す能力を獲得したわけではない」というのだ。広く一般に、習い事や教科書の勉強だけでは子どもの人生が豊かにならないことは認識されているが、その原因はどこにあるのか、ともすれば親は何を子どもに与えれば良いのか、困惑させるだけの指摘も散見される。この混沌の中、彼の指摘には組織論、経営論のエッセンスが凝縮されており、同様に滞っていた私の思考を整理してくれた。

「資源(Resource)」「プロセス(Process)」「優先順位(Value)」については、こちらにわかりやすい解説があった↓
千種伸彰.biz : イノベーションのジレンマとは②~組織の能力の枠組み~

(*2) このフレームワークの「Value」という単語は一般に「価値基準」と訳されることが多いようだが、意味合いとしては「組織や個人は何を優先するか?」という問いかけであるため、「優先順位」という単語は本来の意味と日本人の感覚をつなぐ名訳だと思う。

100%守る方が98%守るよりたやすい

倫理的妥協が招く厄介な影響を免れる方法は一つだけである。そもそも妥協を始めないことだ。妥協の第一歩が現れたら、踵を返そう。

彼は信仰心がとても強く、学生時代にバスケットボールの試合を蹴ってまで礼拝を優先したようだ。私もどうしても外せない用事には、これらから人生で何度も巡り合うことと思うが、彼のように「信条」に基づいた行動をしたいしほとんど守ることよりも確実に守ることの方が簡単であるという知恵を生かしたい。


櫻井祐子という翻訳家

すでに言及しているように「Value」を「優先順位」と訳した彼女の翻訳には、随所で心を打たれた。 過去にも彼女の翻訳本にいくつか出会っている。

シーナ・アイエンガー「選択の科学」
ダン・アリエリー「不合理だからうまくいく」
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人生の戦略を立てることと、経営戦略を立てることは同じ

仕事、私生活、どちらを取ってもそれなりの悩みを抱えながら日々生きていく人生が、ある意味では一般的だろう。私もその一般の中にあって、常に自問自答を繰り返しながら日々生活を続けている。仕事と私生活の双方を充実させ、さらにバランスを取ることは経験的に容易ではない。ここで、クリステンセン教授の言葉を借りよう。

優れた理論は、わたしたちをビジネスだけでなく人生でも、賢明な決定に導いてくれる。

世間では、仕事のために頑張って本を読むだとか、私生活を充実させるために豪遊するだとか、お互いを切り離して考える思考が目立つ。しかし、ビジネスと人生の理論は互いに応用できるという姿勢は、個人が保有する知恵という資産を、非常に効率的に運用してくれる。